放射線の人体への影響

危険なものは恐れるべきだし、避けるよう努力すべきだ。しかし、どの程度危険なのかというようなことが分からないままに恐れることには弊害がある。こちらが勝手に想像力で恐怖心を拡大していくからだ。
そういうことを避けるために、危険を正確に知るための努力が必要になる。
核医学は専門ではないけれど、医師になるための講義で一通りのことは学習している。
DNAの損傷や修復、発癌の仕組みも大筋で理解している。
しかし、東北震災後、一般のニュースで騒がれている、3.7μSv/hだとか、内部被爆の危険性だとか、セシウム牛だとかについて、これが過剰に騒いでいるのか、本当に危険なのかということが自分の中ではっきりしない。
そこで、インターネット上で集められる情報の中で、自分の知識と照らし合わせてこれは確かだと思える部分のみを集めて、結局外部被爆としては何mSV/年からを危険と考え、内部被爆としてはどう考えるのかを、まとめておこうと考えた。
非常に参考になったサイト。
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/damage.html
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A2%AB%E6%9B%9D
・まず、放射線とは、放射線元素である、ウラン238などがより安定な元素に崩壊分裂していく際に発せられる粒子線である。
・この放射線により、人体を構成する単位である細胞や、その核内のDNAが損傷され、組織障害や癌化などの有害な変化が生じる。
・本来はその粒子線の強さはエネルギーとして表記される(Gyグレイ)が、人体への有害さの程度を示す単位としてSvシーベルトが使われる。
放射線を発する能力、もしくはその能力のある物質のことを放射能、と呼ぶ。単位にはBq(ベクレル)が使用される。
・人体に有害な放射線には、これには飛距離がほとんどないα線β線と、遠くまで届くγ線がある。
・有害な放射線を人体が吸収することを被爆という。これには外部被爆と内部被爆がある。
・外部被爆とはすなわちγ線によるもので、1年で20mSv(ミリシーベルト)を超えないことが推奨され、100mSVを超えると何らかの有害な影響が出現する可能性がある、とされる。しかし、放射線関係の事故が無くても、自然環境から年1〜2mSvは被爆している、という事実。
・内部被爆とは、放射能を持つ物質を体内に取り込むことにより起こる被爆で、α線β線による被爆が生じる。
・内部被爆は自然の状態でもカリウム40、炭素14などにより生じており、60kgの人間で7000Bq程度の放射性物質を体内に持っている。これらによる、年間の被爆量は0.39mSvと推定される。
・核実験や原発事故で人為的に作り出される放射性物質で、内部被爆の原因となりうる元素にはヨード131、セシウム137+134、ストロンチウム89+90、プルトニウム238+239+240がある。
・今回の東北震災原発事故で拡散した放射性物質で人体に影響のあるレベルで検出されているものはヨード131とセシウム137である。
・ヨード131の半減期は8日であり、事故から数ヶ月経てばほとんど存在しなくなるが、ヨードは甲状腺に集積するため、甲状腺癌の発癌のリスクが、高まっている可能性がある。
チェルノブイリ事故後9年目に、ヨード131が拡散したと見られるベラルーシで、10万人に1人であった小児甲状腺癌が10万人に82人まで発生率が上昇した。全ヨーロッパでチェルノブイリの影響による甲状腺癌で死亡したと考えられる人が15人いる。
・食物の放射能限度は370Bq/Kgと決められている。しかし、原発事故周辺の牛肉から3000Bq/Kgのセシウムが検出されたことがある。
セシウム137は半減期が30年と長いので、なかなか減ることは無い。しかし、尿中に排泄され体内からは大体60日程度の半減期で排泄される。プルシアンブルー、リンゴペクチンなど投与することで早く排泄させることが出来る。
ストロンチウム90は半減期30年で生物学的半減期が50年、プルトニウム半減期24000年だが経口では摂取されず、吸入で摂取された場合は生物学的排泄は無い、とのこと。
半減期が遅い、ということはそれだけ放射線を出さない、ということでもある。内部被爆でもBqだけでなく、Svに換算する必要がある。
・Sv/Bq換算係数:
ヨウ素131 は 2.2×10^-8
ヨウ素133 は 4.3×10^-9
セシウム134 は 1.9×10^-8
セシウム136 は 3.0×10^-9
セシウム137 は 1.3×10^-8
プルトニウム238 は 2.3×10^-7
プルトニウム239 は 2.5×10^-7
プルトニウム240 は 2.5×10^-7
ストロンチウム89 は 2.6×10^-9
ストロンチウム90 は 2.8×10^-8
これでわかるのは、プルトニウムはかなり危険ということ。
・IRCPの発表によれば、生涯で累積1Sv(=1000mSv)の被爆をすると、癌で死亡する確率が5%上乗せされる。もともと25%程度の癌による死亡の確率が被爆により30%になる、という影響がある。癌にかかる率はその2倍で50%が60%程度になる。
・生涯で累積100mSvの被爆をすると、癌で死亡する確率が0.5%上乗せされる。もともと25%が25.5%になる。癌にかかる率は50%が51%になる。
・小児ではこの危険が数倍から十倍になる。
・この危険をどう考えるか。http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/damage.htmlこのページの「確率的影響の考え方」という部分がとても参考になる。



まとめ

被爆には外部被爆と内部被爆がある。
ガイガーカウンターなどで計っているのは外部被爆
セシウムストロンチウムなどといって騒いでいるのは内部被爆で、それを経口または吸入摂取することを問題としている。
放射線は浴びなければ浴びないほうが良い>無閾値仮説。
けれども自然界の放射線で2mSv/年程度は被爆している。
内部被爆についても、もともと100Bq/Kg程度の放射性物質を生き物は持っている。
生涯で累積100mSvの被爆をすると、癌で死亡する確率が0.5%上乗せされる。もともと25%が25.5%になる。癌にかかる率は50%が51%になる。
小児ではこの影響が数倍から十倍になる。
これらを勘案してどの程度の危険を許容するかそれぞれ個人が判断していく。
IRCPの勧告では20mSv/年を超えるところには住まない。370Bq/Kgを超えるものは食べない。

以下、参考になる原発事故以外の要因による被爆量 単位mSv/年
0.1 - 0.3: 胸部X線撮影1回分の線量
1.2: 1日1.5箱のタバコを吸う喫煙者と同居する人が、副流煙から受ける年間の線量
7 - 20: X線CTによる撮像1回分の線量
13 - 60: 1日1.5箱のタバコを吸う喫煙者の年間の線量
100: これより高い放射線量では健康被害が科学的に証明されている