透析まとめ4

実際この章がメインとなる。コピーペーストというのは全く楽な作業だ。

4.長期透析管理
管理事項 keywords
透析効率 Kt/V
体重管理 DW,CTR
食事制限 K,Nacl, nPCR
腎性貧血 Hb,HT,Fe,TIBC,Ferritin
腎性骨症 CaxP,iPTH,
シャント管理 Qb
その他の合併症
4-1.透析効率
透析効率とは、一回の透析による、尿素の除去率を示す数値であり、Kt/Vという記号で示される。K=クリアランス t=透析時間 V=体液量
  Kt/Vの4通りの求め方
1.ダイアライザーのクリアランスから:尿素リアランス165ml/minのダイアライザーで体重60kgの患者が5時間透析を行った場合。
Kt/V={165ml/minx(5x60)min}/{(60kgx0.6x1000)ml}=1.375
2.透析治療前後のBUN値から:前値=70mg/dl 後値=20mg/dl
Kt/V=-ln(BUN後値/BUN前値)=-ln20/70=-ln(0.285)=1.25
3.治療中の尿素リアランスから:
K={(BUN動脈側-BUN静脈側)/BUN動脈側}x血流量
このKを使って1と同様にKt/Vを算出。
4.廃液中尿素量から:廃液をすべて貯留することにより求める。
Kt/V=-ln{1-(廃液透析液BUN値x廃液透析液量)/(BUN前値xV)}
double-single
体を尿素を蓄積した一つの容器と考えたモデルでのKt/Vをsingle-poolKt/V
透析後のリバウンドも考慮した除去率を示すモデルでのKt/vをdouble-poolKt/V
(要するに体内を尿素が除去されやすいコンパートメント=血液と除去されにくいコンパートメント=組織二つの区画よりなるモデルとして考える)と呼ぶ。
寿命との相関
統計学上、多くの患者で死亡のリスクを最小にするKt/Vの値が示されている。
single-pool Kt/V=1.2~1.8
double-pool Kt/V=0.9~1.5
また、透析時間は長時間であるほうが望ましく、最低でも4時間必要と考えられている。
理想的なKt/V/t=0.3~0.45 Kt/V/tがこれ以上になると死亡のリスクは増大する。
透析効率を改善する方法
1.透析液流量を上げる:多くの施設でQd=500ml/minで固定されている。
2.血流量を上げる:Qb=150~220ml/min。多くなれば心負荷が増える。
3.ダイアライザー膜面積を上げる:0.9~2.2m2。体表面積に等しい膜面積が望ましい。
4.穿刺部位を変える:局所再循環が生じにくい穿刺部位に変える。

4-2.体重管理
Dry weight(適正体重):透析による除水操作によって最大限に体液量を減少させたときの体重。
DWの指標
①CTR50%以下(女性は55%以下)
②正常血圧、および透析中の血圧低下が軽微
③浮腫がない
④肺うっ血がない
⑤中心静脈径1.2~1.5cm 呼吸性変動50%以上
DWの管理とは、透析中血圧管理との並行作業
透析中血圧管理に関わる要素
総除水量:体重増加量。これが大きいほど血圧は低下しやすい。増加量が多い患者には、塩分、水分摂取量について自己管理の徹底が求められる。
総蛋白:蛋白量が少ないほど、PRが悪く、血圧は低下しやすい。栄養状態の改善が求められる。
心機能:心不全例では代償不全により血圧低下を起こしやすい。
動脈硬化:循環血液量の低下による血圧低下が起こりやすい。末梢血管収縮剤である、リズミック、ドプス、エホチールにより、四肢末端の壊死が増強しやすい。
自律神経障害:糖尿病に多い。透析終了後の起立性低血圧が起こり安い。
Plasma refilling:血管内の除水が急速になされた場合、血管外から水分が血管内に戻ってくる現象。このスピードが速いほど透析中の血圧低下が起こりにくい。糖尿病の患者などではこのPRが悪いために除水量は少ないのに低血圧が生じると考えられる。また、PRが悪いほど、短時間透析では、十分な除水ができない、ということになる。
昇圧剤の使い方:次頁
利尿剤投与:一日尿量500ml以上ある例ではラシックス40mg/day投与にて、体重増加量減少が望める。
透析中低血圧
除水による循環血液量減少と心拍出量低下が原因。
予防:
⓪降圧剤の中止。
①DWの適正化:血圧、CTRを見ながらDWを0.5kgずつ上げてみる。
②除水速度適正化:1回除水量はDWの5%程度までが望ましい。最高でも7%までとし、時間除水量が1Lを超えないようにする。Clit-lineコンソールにより、時間除水量を継時的に変えるのもよい。
③透析中食事の中止。
④低蛋白血症の是正。
⑤透析液の調節:1.高Na透析液(140mEq/L以上)→口渇生じる。2.低温透析(34~35度)→悪寒など。
⑥昇圧剤投与:リズミック10mg、ドプス200~400mg透析前に投与。閉塞性動脈硬化症による四肢末梢壊死がある場合は避ける。
治療(緊急時):
①頭低位、除水中止、血流量下げる、酸素吸入。
②生食100~200ml急速静注、エホチール1/2A静注。
③透析中止。
④イノバン3γ投与開始。

4-3.食事制限
透析患者には食事制限が存在する
カリウム制限:2000mg/day以下が望ましい。
生野菜、果物、芋、豆の摂取を控える。
カリメート、アーガメイトゼリーによるカリウム吸収制限。
塩分制限:6g/day以下が望ましい。
リン制限:肉、牛乳など蛋白質の豊富な食物に多い。リン吸着剤の処方など。
nPCR:蛋白摂取量の指標。透析前後のBUN値から求められる。死亡のリスクと関係する。
nPCRは0.9g/kg/day以上が望ましいとされる。
4-4.腎性貧血
エリスロポエチン産生不足が本態であるので、その補充が基本となる。
2006年4月診療報酬改正でEpo剤投与は透析技術料に包括され、4500単位/週より多い投与は、病院側負担となるように改変された。
ガイドライン 
Hb=10~11g/dl(Ht=30~33)を目標とする
Epo剤投与開始は、複数回Hb<10で開始。
活動性の高い若年者についてはHb=11~12g/dlを目標とする。
Epo抵抗性貧血と検査
1. 鉄欠乏>TSAT,ferritin測定
2. 二次性副甲状腺機能亢進症>iPTH測定
(PTHには赤血球の産生を抑制する作用もある)
3. 慢性的な血液喪失>便潜血検査
4. 隠れた悪性腫瘍>CT等
5. 慢性炎症>リウマチ、感染症
6. 骨へのアルミニウム蓄積>Al測定
7. 栄養不良>nPCR
8. ACE阻害剤の投与(ACE阻害剤は、内因性エリスロポエチンの産生を抑制することにより貧血を増悪させるとされているが、ACE阻害剤の投与が臨床的に明らかな貧血の原因となっていることは希である)
9.アンジオテンシンⅡ受容体ブロッカーの投与
10. L-カルニチン欠乏 
11. その他(葉酸あるいはビタミンB12の欠乏、多発性骨髄腫、透析不足、溶血、ヘモグロビン異常)
 
鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血の診断
1.  鉄飽和率 TSAT(Fe/TIBCx100)が20%以下
2.  血清フェリチン濃度100ng/ml以下
3.  MCVが4ヶ月以上連続の低下傾向
鉄欠乏性貧血の治療
   NKF-DOQI guideline
(1)Ht=33〜36% (2)鉄飽和率20%以上 (3)フェリチン濃度100ng/ml以上を目標とする。
TSAT<30% フェリチン<300ng/mlまでは、鉄剤投与の効果はある。
ただし、鉄飽和率が50%以上、血漿フェリチン濃度が800ng/ml以上の場合には、鉄剤を投与してはならない。
なお、鉄剤投与に伴う鉄飽和率の増大や血漿フェリチン濃度の上昇の確認は、最後の鉄剤投与時から2週間以上経った時点でおこなう。
鉄剤の投与方法 経口投与では、効果不十分。経静脈的な鉄剤投与が必要。
HD終了時に40mg/回 1〜3回/週投与。
鉄剤投与の副作用 鉄剤の経静脈的な投与によりアナフィラキシーを生じることがある(1.7%)。初回の鉄の投与量は少量とし、アナフィラキシーが発生しないことを確かめるのが望ましい。具体的には、初回は20mgの鉄を40mlの生食に溶かし、5分以上かけて経静脈的に投与する。これで、問題がなければ、投与量を増やす。 

4-5.腎性骨症
二次性副甲状腺機能亢進症(2゜HPT)を中心とする病態である。
PTH:副甲状腺で産生。骨吸収によりCa↑。排泄促進によりP↓。
活性型VitD:肝と腎で活性化。腸管からの吸収によりCa↑P↑。
高PTH単独での毒性が指摘されている。(Epo不応性、耐糖能異常など)
腎性骨症 病態相関図:自作 コピー不能
2゜HPTの診断
iPTH:健常者では50~65pg/ml。腎不全患者では健常者の3倍程度が必要。150~300pg/mlを正常域とし、300pg/ml以上を2゜HPTと考える。
Ca:正常値8.4~10.0mg/dl。炭酸カルシウム剤投与により、高Caとなる例が多い。
  補正Ca=実測Ca+4.0-Alb
P:正常値3.5~6.0mg/dl。高値が2゜HPTの要因。
CaxP:CaxP≦60が目標。CaxPの上昇は異所性石灰化の要因となる。
ALP:ALP骨分画高値で、骨形成促進状態であることがわかる=高回転骨。
副甲状腺超音波検査:透析歴の長い、iPTH>500pg/mlの症例ではエコー検査を施行。長径が1cm以上の腺腫があれば結節性過形成と診断→PEIT,PTX
骨密度・骨塩量測定
BMD:二重エネルギーX線吸収法(DEXA法)により、簡便に測定可能。腰椎での測定が一般的だが、橈骨での測定が2゜HPTの程度に相関するとの報告がある。
骨膜下吸収像、腰椎骨梁透亮像、rugger jersey like change、大血管石灰化などを判定する。診断名としては線維性骨炎、となる。

2゜HPTの治療
発症予防:①低Caの是正、②高Pの是正、③活性型VitDの補充、が基本となる。
①Ca>8mg/dlを目標とする。炭酸カルシウム剤の投与により、高値となることのほうが多い。
②P<6mg/dlが目標だが、CaxP<60を優先する。高蛋白食制限、リン吸着剤の投与。リン吸着剤には炭酸カルシウム剤(カルタン)とCaを含まないリン吸着剤(レナジェル)とがある。食直前投与が望ましい。
③iPTH<300pg/mlを目標とする。経口投与法と経静脈パルス投与法があり、有意差は認められていない。経口剤(フルスタン)、静注剤(オキサロール、ロカルトロール)。ただし、Ca,Pの上昇作用があるので、CaxPの上昇を認めたら減量を考慮すべき。
外科的治療
PEIT:経皮的上皮小体エタノール注入療法。エコーガイド下に穿刺しエタノールを注入する。オキサロール、ロカルトロールを注入する方法もある。3腺腫以上肥大例についてはPTXが望ましい。反回神経麻痺に注意。
PTX:副甲状腺摘出術。適応:iPTH>500pg/ml、長径1cm以上の結節性肥大、高骨回転所見(線維性骨炎の存在)、かつ内科的治療に抵抗性のもの。4腺すべて摘出し、1腺を前腕に移植。術後の低Ca血症に留意。

4-6.シャント管理
シャント造設当日の閉塞:spasmに因る。PG製剤、抗凝固剤、昇圧剤の投与などにより予防する。閉塞した場合はウロキナーゼ経動脈投与など。
維持透析時の管理:患者自身による毎日のシャント音の確認、透析前後のシャント音確認、透析血流量低下の有無によりフォローアップする。
AV血流量評価:シャント部ドップラーエコーにより、AV血流量が測定可能。正常値は200~500ml/min。心拍出量に対するシャント血流量が20%を超えると、Big shuntとして問題になる。通常のシャントは心拍出量の3~12%。
他にシャント血流を評価する方法として血管造影がある。
狭窄時:インターベンション治療(PTA)or外科的治療(再建)
狭窄早期発見時にはPTAが第一選択となる。しかし、現在の保険診療上、シャント狭窄にPTAを施行しても、経皮経動脈血管形成術(15800点)は認められず、フォガティカテーテルによる血栓除去術(3130点)しか請求できない。PTAではステント留置、カッティングバルーンによる加療も可能。シャント狭窄後長時間経過例、短期間反復例では外科的再建が望ましい。

4-7.その他の合併症
透析アミロイドーシス:β2ミクログロブリンを主体とするアミロイド線維の沈着による。
骨関節病変
手根管症候群:正中神経圧迫症状=拇指~第3指までのしびれ、疼痛。
弾発指:ばね指。腱鞘、滑膜への沈着による。運動障害。
骨嚢胞:手根骨、上腕骨骨頭、大腿骨骨頭に多い。特に症状はないことが多いが骨折の原因にもなりうる。
破壊性関節症:滑液包炎など。脊椎(DSA)。肩関節自発痛など。
   その他の部位
心アミロイドーシス:慢性心不全。心筋生検など。
消化管アミロイドーシス:下痢、腸閉塞など。
予防:ハイパフォーマンス膜によるBMGの除去、吸着カラムによるBMGの除去、透析液中エンドトキシンの除去。
治療:手根管開放手術、疼痛に対してNSAID投与など。
皮膚掻痒症
透析患者の40~70%に皮膚掻痒症を認める。高Ca、高P、高iPTHが危険因子。他に発汗低下、微量元素欠乏、中分子物質蓄積など様々な原因が推測されているが不明。
治療:高ヒスタミン薬、外用剤(ヨモギローション)など投与されているが効果不十分。
現在臨床試験中のκオピオイド作動薬(TRK820)が期待されている。
悪性腫瘍
腎不全患者においては悪性腫瘍の発生頻度、死亡率が一般に比して高い。(発生率1.4倍、死亡率1.9倍。透析患者死亡原因の7.9%が悪性腫瘍)
腹部エコー、CTなどによる定期的な腫瘍検索が望ましい。特にACDKからの腎癌の発生率は一般の9.4~12.5倍との報告がある。

実際の長期管理例
透析定期検査:1ヶ月に1回、透析前後で採血し、CBC、生化学、胸部XpにてCTR測定する。
透析前後のBUN値より透析効率を算出し、必要なら効率改善のための方策を講じる。
Hb、Htの動きを見て、必要ならば、Epo剤増量し、4500単位/週投与していても貧血があるなら、鉄欠などEpo不応貧血の精査をする。
Ca、Pの動きを見て、必要ならば、リン吸着剤の増量、活性Vit剤の減量を考慮する。
CTRの増減、一回除水量、透析終了時血圧などを見て、必要ならば、DWの変更を行う。
半年に1回は、iPTHを測定し、活性VitD剤の投与量調整、頸部エコーの適応を考慮する。
半年に1回は、フェリチン、TIBC+Feを測定し、鉄欠乏の状態を評価する。
一年に1回は、腹部エコー、CTなどにより悪性腫瘍検索する。
一年に1回は、心エコー、中心静脈径を測定し、循環動態を評価する。
一年に1回は、感染症マーカーを測定し、血液感染の有無を確認する。
Epo剤、降圧剤、昇圧剤、P吸着剤、K吸着剤、眠剤、抗ヒスタミン薬、ペンレスなどを1ヶ月ごとに投与する。
シャント狭窄、閉塞を疑うとPTAなどの適応を考慮する。