なぜ透析は煙たがられるのか。

当院だけではなく、2次救急までやっているような急性期病院において、透析関連業務および透析患者は一般内科医、外科医などから煙たがられる。
透析患者だというだけで、明らかな脳梗塞や、心筋梗塞の状態なのに、神経内科医や循環器内科医が主治医になりたがらない。
また、透析は通常週6日、休日であろうと年末年始であろうと休み無く業務がある。この当直業務を透析室担当医だけで回すことはほぼ不可能なので、他科の研修医など、手を借りようとするが、これもかなり嫌がられる。
そしてこれは当院だけの事情ではあるのだが、腎臓内科医が透析室担当医であることのあまりの負担に、病院をやめてまでここから逃げ出したあとは、どこの科もここの担当をしようとはせず、かなり通常ありえない経路で、泌尿器科透析室を担当するというようなことも生じている。
これはなぜだろうか。
まず、なぜ透析患者が嫌われるのかといえば、まあ、一言で言えば合併症が多いからだ。何か治療をしようとするとほかの合併症が悪化したり、治療薬剤には腎排泄のものが多いので、投与量や、薬剤の透析性を考慮して投与計画を立てなければならなかったり、いろいろと通常の患者より、診療がややこしくなるのである。また、透析患者は大体において、長期にわたって病院通いをしているので医療者側の裏事情などにかなり通じており、どう言えば無理がきいて、どうすれば自分のわがままを通せるかという技術に長けている。そういう意味で、「扱いづらい」患者が多いのである。医学的知識もかなりあるし、主治医が治療方針を決めても、素直に従わないことが多い。つまりはコンプライアンスの悪い患者なのである。そしてコンプライアンスの悪い患者は嫌われる。
今度は、なぜ透析業務が嫌われるかを考えてみる。これは一言で言えば、業務内容に面白みが少ないからだ。透析というものは長期間に渡る、現状「維持」を目標とした治療である。合併症管理、全身管理などやるべきことはあるのだが、合併症予防薬投与、ドライウェイトの設定など、すべてルーチンワークとなってしまい、変化に乏しい業務である。
けれども、体外循環を行っている以上は、急変ということはありうるわけで、待機、当直、責任体制など、担当となる医師がどうしても必要になる。つまり、やることはないけれども長時間拘束される、そういう業務が透析業務となる。患者も先に述べたような事情で、病院を便利屋代わりに使用する傾向が出てくるから、ちょっとした風邪などでも、内科を受診したりはせず、透析担当医に風邪薬を出すように依頼する。週に3回も病院に通っているのだから、これ以上病院になど行く気はしないというわけだ。そうするうちに透析担当医は、透析患者全員のさながら「家庭医」のような役割を担わされることになる。
急性期病院では、誰しも急性期疾患への基本的な診察技術、治療技術を身につけたいと考えて勤務している勤務医が多いわけであるから、このような慢性期長期管理を面白いと考えるような医師は少ない。その結果だれも透析業務などやりたがらない、というこういうことになるのである。
当院の透析室の実情を述べるなら、そのようにのけ者扱いされ、片手間にしか診てくれる医師がいない状況におかれた当院の透析室は、看護士などもできの悪い人々が集められ、不必要な指示まで聞いてきたり指示簿に書かせて自分の身を守ることばかりに必死だったり、時間が余るものだから見当違いの看護研究ばかり行ったり、とにかく魅力の無い職場で、担当医までもが透析室から足が遠のく。その悪循環が続いてすっかりだめな職場となってしまった。臨床工学技師が増えてからは、穿刺でしょっちゅう呼び出されることはなくなったが、相変わらず見当違いな指示確認の電話ばかりよくかかってくる。このままでは誰も近寄らないような透析室になってしまうだろう。
透析を嫌がる他科の医師については、自分の科の疾患については、ちゃんと診ろ、と言いたい。透析であろうとそうでなかろうと、たとえば脳梗塞があるならその診療には神経内科医か脳外科医が当たるのが当然である。合併症や投与薬剤量については、透析担当医と相談すればいいのである。