安心社会から信頼社会へ

「ほぼ日」で勧められていたこの本を読んだ。少し解説がくどい、と感じられたが、的確な指摘が多く、面白かった。
・日本人は集団主義的で、欧米人は個人主義的と言われるが、実態は異なる。
・実験の結果、日本人の多数が「私は個人主義だが、私以外の皆が集団主義なので、集団主義的に振る舞わざるを得ない」と感じていることが分かった。
・閉鎖的な農村でイメージされるような、メンバー同士の監視や制裁といった仕掛けで、メンバーの裏切りや非協力的行為を減らす環境を「安心社会」と呼ぶ。
・「安心社会」では、メンバー同士の「信頼」は必要ない。環境が安心を提供している。結果として、メンバーは他人(「よそ者」)を信用しない人間となる。
・近代化、都市化によって日本の「安心社会」は崩壊し、「信頼社会」への転換が必要となってきた。
・信頼社会とは自らの責任で、裏切られるリスクも覚悟で他者と積極的に協力関係を結び、メリットを増大させていく人々による社会。
・しかし「安心社会」に頼ってきた日本人が、信頼を取り戻すのには困難が大きい。
・信頼社会の構築のためには、「正直者が損をしない」ための社会制度の整備と、「正直者が得をする」相互評価などのシステムが必要と考えられる。
・安心社会ー統治のための倫理ー武士道
・信頼社会ー市場の倫理ー商人道
・この二つの倫理は本来、共存、混用不能なものであるのにこれらが混用されることで、社会の混乱、崩壊が起こる。
・逃れようもなく、市場化された現在の日本では商人道の精神で、社会制度を整備していくべきだ。


具体的に面白かった発想。
・日本人は「和を尊ぶ」くせに他人を信用しない。「他人を見たら泥棒と思え」
・閉ざされた「安心社会」の枷が外れると、放埓になってしまう日本人。「旅の恥はかき捨て」
・他人との協力が必要だと考える高信頼者ほど、他人の信頼度を正確に評価する能力が育つ。
・「空気を読む」のは「安心社会」を生きるための能力。
・いじめを解決するには「臨界質量」を意識した対策が必要。
・正しいいじめ、もある。
・ネットオークション実験における、ポジティブな評判の効果。
・「統治の倫理」と「市場の倫理」を混用してはならない。
・「武士道」は日本の誇るモラルではあるが、信頼社会を築くのであればこれを捨てて「商人道」を採るべきである。