医療はサービス業か

医療はサービス業だ、と言われる。その割には医者の愛想が悪いので、もっと患者の気持ちに立った接遇を心掛けるべきだ、などと医者が非難されることが割とある。
けれど、本当に医療はサービス業だろうか?
ホストという仕事がある。あれは間違いなくサービス業だろう。サービスの質が良ければ人気が上がり、それによって収入が上がるのだから、ホストがサービスの質を向上させるために努力するのは当たり前だ。
しかし、医療は如何に患者の側に立って、気配りの生き届いたところで、得られる診療報酬は一緒である。サービスをがんばったからたくさん料金を頂きます、というわけにいかない業種なのだ。さらに、もちろん人気が出て、患者が増えれば収入は上がるはずであるが、基幹病院だと、患者が多すぎて困っているのであり、増えればいいなどという動機は、医療においてはほとんど当てはまらない。
もちろん、矯正歯科、美容整形、近視のレーシック手術など、自費診療で儲かる医療ついては、当然お客に来てほしいから、サービスはどんどん充実していくはずであるし、実際それらの自費医療のサービスはどんどん質を高めているだろう。
ところが、皆保険制度で、患者は自分の懐が痛んでも3割負担、障害者認定があれば無料、月10万以上の高額医療は10万を超える分は自己負担なし、など、優秀な日本の社会保障制度により、簡単に医療を受けられる日本の患者の中には、救急受診などをためらいなく利用する人がいる。大した怪我でもなく、翌日まで待って外来で並んで待つのが嫌だから救急を受診する、というようなコンビニ感覚の受診者がいる。そういう患者に「医療はサービス業だから、もっと愛想良く対応しろ」などと言われても、業務に追われ疲れ切った医者は、そんな対応ができるはずがない。
競争相手が多く、患者を奪い合うようになるほど病院や医者の数が増えれば、「医療はサービス業だから、もっと接遇をがんばれ」というような主張にも意味は出てくるだろうが、常に仕事に追われ、サービス残業に追われ、家に帰ることもできず、それだけ頑張って働いても患者からかけてもらうのはクレームばかり、というような職場環境にいる医師たちにそんな事を言っても、全く的外れだ。
現在の私は開業医で、今述べたような勤務医の過酷な環境からは解放されており、収入を増やすために、サービスに努めなければならない立場ではあるが、それでも、本当に困っている患者のために献身する気にはなっても、仕事の都合でどうしても通常の診察時間には受診できません、というような人には、仕事を優先できるくらい元気な体なのだから、まあ、もっと困ってから受診されたらいいのでは?というような気分になる。まあ、場合によりけりで、こちらが納得できるような理由があったり、ある程度の緊急性があれば、当然時間外でも診察するけれど。
もちろん、基本的に医療はサービス業だ。だが、現在の日本の医療において、患者が医療に望むものと実際の医療体制のズレが大きすぎて、「医療はあなた方の考えているようなサービスではない」と言わざるを得ないような状況にあるのもまた確かである。