卒後教育-感染症診療基礎1

研修医向けの、衛星中継医師教育プログラムが月1で行われるらしい。
果たして2時間半も気力が持つかわからないが、一応聞いておこうかと思う。



行ってきた。青木眞さんという医師の方の、感染症に関する教育講演だった。
夜19時30分から21時40分まで衛星中継で行われたセミナーだったが、柔らかい物腰と、その割には時々飛び出す毒舌が面白く、2時間楽しく聞くことができた。

http://blog.goo.ne.jp/idconsult

青木さんの言いたかったことは要は、医師は(研修医は?)原則を守れ、ということだ。感染症の診断は、検査を優先するのではなく、感染の部位、原因微生物を予想、推理した上で、検査をオーダーし、その結果と照らし合わせて、また予想能力を高めていく。そうしないと、ただ広範囲をカバーできる無駄な検査を乱発し、広範囲をカバーできる抗生剤を乱発する、「地引網漁師」になってしまいますよ、と。そして、検査が陰性でも疾患が存在する可能性、症状が増悪しても病原体は消失している可能性などを想起できる能力は、育たない、ということだった。青木さんが言うように日本の多くの医師はこの「地引網」を引いているし、それによる菌交代、副作用、耐性菌の問題など、害悪が生じている。それが改善すべき問題なのは確かだろう。

こういう原則を守れ、という指導は、若い研修医の方には、当然為されてしかるべき発言で、卒後10年を超えた自分にも、耳に痛いところはあるのだけれど、青木氏のおっしゃる正しい感染症診療実践できるのは、病院に勤める研修医だけで、収益を上げたり、患者との関係を良好に保たなければならない実際の診療所において、ここまで合理的な診療を実践することはできない、とも感じた。



それはそれとして、
青木さんから昨夜教わったポイントは以下の5つ。
感染症は局在する。
もちろん例外はあり、局在しないことによってむしろその診断の助けとなる、マラリアチフスなどの病気もあるが、大体において感染症は局在する疾患であり、局在しなければ、FUOとして腫瘍、膠原病などを疑っていくべきである。
・原因菌は多くの場合1臓器につき、1菌種。しかも特異性がある。
免疫低下した院内感染例などではそうも言えないこともあるが、基本は1菌種に絞るべき。そして、サンフォード感染症治療ガイドの1ページから纏めてあるように、臓器ごとに感染する原因菌は大体決まっている。例えば、黄色ブドウ球菌ならば、傷ついた軟部組織、もしくは血液感染が中心であり、MRSA肺炎、MRSA腸炎などということは稀であり、培養で出たならコンタミの可能性の方が強い。
・培養よりも、グラム染色の方が感度、特異度ともに優れている。
感度:検体採取後すぐに検査できるので、体外に出るとすぐに死んでしまう肺炎球菌なども検出できる。
特異度:培養はコンタミすらも増幅して報告する。実際に増えている細菌を、増えている程度とともに確認できるのはグラム染色である。病勢の評価もこれにて行える。
・発熱、白血球数、CRP感染症の病勢評価として信用ならない。
Sepsisになると、白血球数、体温ともに低下する。また、肺炎球菌のように、臓器障害のパターンによって、菌が消失しても炎症反応は一度悪化してから快方に向かうような自然経過の菌も存在する。
・臓器-細菌-特定の治療反応パターンを把握する。
例えば肺炎球菌による肺炎なら、ペニシリン投与後数時間で菌は消失するが、熱型は、二日か三日は高熱の波が続く。その後に治癒する。この自然経過を知らなければ、3日目の発熱に対してまた培養を採り、生えてきたコンタミカンジダなどに対して、抗真菌剤を投与するような愚を犯すことにつながってしまう。3日目の発熱に対しては、何もしなくても、自然に熱は下がって行くのである、とのこと。



青木さんの話はそのような、言われてみれば確かにそうだけれども、それでもつい日常診療で嵌ってしまっている感染症診療のpit holeを的確に教えてくれた。今まで知らなかった新たな知識ではないのだけれど、具体的に例を交えてpit holeを解説されてみると、自分が原則から離れてしまっていたことに気づかされる。このセミナーはとても有意義だったと思う。けれど、これを聴いている医師は全国で300名ちょっとしかいないらしい。確かに製薬会社主催のセミナーや講演会には、有名なだけの講師の眠いだけの講演も多く認めるけれど、今回のセミナーに関しては、聞く人が少ないというのは非常にもったいない話である、と感じた。
次回からの続きに関しても参加してみようと思う。



こうして時々、自分の一般内科医としてのupdateを図るのは有意義だ。