重力ピエロ

by 伊坂幸太郎
みなとみらい駅のbook1に山積みになっていたので帰りの新幹線の時間つぶしに購入。
一気に読み進められるという面白さは十分にあるが、まだ読み進めている中盤で弟の方の実父が分かってしまったり、ミステリ路線ならもう少し分かりにくい展開のほうがクライマックスが盛り上がるのではないかと思ったりもする。なんとなく「コインロッカーベイビーズ」に似ている気がする。
まあ最後まで読んでみて感想を書き加える。
ところどころに挿入されている、人間とか人生に関する挿話や、歴史的事実、進化遺伝学や運命決定論に対する、個人の態度表明は、詩的でかつ誇張がなく、とても良い文章だと感じた。
しかし、ミステリーとしては駄作だと思う。
たとえばクライマックスの、春が葛城を小学校に呼び出した日のこと。泉水は、葛城に名刺を渡しているだろうから、葛城が春の家庭について調べていたなら、当然泉水の名字で、泉水の呼び出しの意味も理解していたはず。こういうミステリの構成としてはあり得ない単純な矛盾がいくつもあり、結局ミステリ路線は、物語に必要な緊張感を与えられずに終わっている。どうせならばもう少し幻想調にして、夢か現実かわからないような辺りで話を進めればよかった、と思う。