糖尿病の内服治療

自分の記憶を固めるために、昨日の講演内容をまとめてみる。


まず意識するべきは、糖尿病の治療目標だ。
勘違いされがちだが、血糖値を下げることが、糖尿病の治療目標ではない。
糖尿病による合併症を発生させず、高いQOLと生命予後を維持することが、糖尿病の治療目標である。目先の血糖値に囚われるべきではない。


合併症とは、microangiopathyとmacroangiopathyに大別される。microangiopathyは有名な神経障害(5年)、網膜障害(7年)、腎障害(10年)で、これは確かに高血糖により生じる。macroangiopathyは心筋梗塞脳梗塞脳出血など生命予後にかかわることの多い合併症でこれは血糖値というよりも、高インスリン血症に伴う高脂血症、高血圧が関与する。こちらも糖尿病合併症として重視すべきである。

糖尿病治療薬はⅠ.インスリン抵抗性改善薬、Ⅱ.インスリン分泌促進薬、に大別される。膵臓β細胞の疲弊という点で考えると、Ⅰが膵臓の負担を軽くする、Ⅱが膵臓にムチ打つ治療ということになる。それをさらに分けると、
Ⅰ.インスリン抵抗性改善薬
  1.チアゾリジン系:アクトスなど。脂肪抑制効果。
  2.ビグアナイド系:メトホルミンなど。燃焼系。
  3.αGI系:セイブルなど。糖吸収抑制。
Ⅱ.インスリン分泌促進薬
  1. SU剤:グリミクロンなど。長い、強い。
  2.グリニド系:グルファストなど。短い、弱い。

治療に当たっては、血糖値、HBA1cのみでなく、血中インスリン値、ひいてはインスリン抵抗性の指標となるHOMA-IR値を測定する。HOMA-IR=(空腹時血糖)x(空腹時血中インスリン値)/405で、正常値は1.0〜1.5。
つまりはインスリン抵抗性の有無を検索すべきで、抵抗性があるのにその改善をせず、Ⅱの薬剤を多用すれば、血糖値は下がっても、却って患者の寿命を縮める恐れがある、ということだ。
もちろん、糖尿病の悪循環を脱するために、一時的なブーストとして、Ⅱの薬剤を使わざるを得ない状況はあるわけだが、そうであっても、Ⅱ-2を優先するなど、あくまでブーストとしての位置づけを見誤らない。また、ブースト目的であるならば、むしろⅡを使用するよりも間欠的インスリン自己注射を早く導入し、悪循環改善まで一時的に使用するというのは、本人の膵臓β細胞を疲弊させないので、Ⅱ使用よりも望ましいと言える。などなど、この講演を聞くまでは得られなかった知見があった。

もちろん食事制限、生活習慣改善があってこその内服治療であり、そこが一番ネックとなるわけではあるが、、、
個人的に、糖尿病治療の何が嫌かというと、こうした、生活習慣とか本人の性格とか、本来医療が立ち入るべきではないような領域に、治療の必要上、立ち入らざるを得ない、という点だ。職業人としての私は病気を治したいのであって、患者の人生そのものと積極的に関わり合いたいわけではない。もちろん、そこに医療の面白みがあるという意見もあるだろうし、そういう人は頑張ればいいとは思うのだけれど、私自身は、そういう人との関わりあいは、利害の関係しない友人として行うものであって、本来経済行為であるはずの医療とは切り離されるべき領域と考えている。