飴と鞭

本格的な慰留工作がはじまった。
まず、泌尿器としてのスタッフ枠が減ることで、現在の外来と手術の体制だとどうしても回っていかないので困る、と言う。
研修医を取って、何とか使えるように仕立て上げるまでの半年でいいから辞める時期を延ばしてもらえないかと。
伸ばした分のボーナスは期間割で支給するし、無理に伸ばしてもらっているので夏休みとかも好きなだけ取っていいと。
必要なら、うちの父親のところまで私が辞めるのを待ってもらえるように頼みに行く、とまで部長は言う。

確かに、スタッフは減るが収入を上げなければならないという部長の苦しい立場は良く分かる。新しくブラキセラピーも立ち上げたところであり、ここで当科の規模を縮小傾向に持っていくのはどうしても避けたいところなのだろう。私も長らくお世話になったこの病院になるべく迷惑をかけない形で辞めていきたいと常々思ってきた。
しかしここで私が優柔不断な対応をすると、お互い遺恨を残すだけとなるのだろう。ずるずると辞める時期を延ばしていると、やはり早くに辞めたいと思っているNo.2あたりがまた私より先に辞めることになり、ますます辞められなくなるだろう。早めにきっぱりと辞める時期は延ばせないということを言って、それに対する対応を向こうに取っていただくように仕向けるのが本当の発ち際の清さというものだ。
私の次の勤務先は実家が経営する医院であるので、着任期限というものは実際上は無い。しかし、父親が体力的に弱っており、引継ぎや、医療法人としての出資金を円滑に移行するためにも早期に私がそこで働く必要がある。
一番大事な私自身の気持ちとして、これ以上この病院で働いて、私が得るべきものはもう何も無い。ただ義理を果たすためだけにこの2年くらいを働いてきたが、もうそれも十分だろう。
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