北新地

大阪で「シンチ」といえば、「キタ」にある、少し高級な飲み屋街を指す。ビルの狭いエレベーターを上がって、ワンルームのような店のドアを開けると、着物を着飾った派手めの若い女の子たちが出迎え、ソファーに座ると、客一人につき一人女の子がついて、一緒に水割りを飲み、チョコレートやおかきを食べ、店に備え付けのカラオケをたまに歌い、2時間くらいを過ごして一人当たり2万から3万を取られる、そういうお店がたくさん集まっているところだ。こんなことに2万円も使う気には到底なれない。人によってその価値は違うのだろうが、私にとっては、同じ使うなら、アシュケナージのコンサートS席に2万使った方が数倍有意義な時間が過ごせると思う。
だから私は自分の金で「シンチ」で飲んだことはない。他人の金で飲むのもそれなりにリスクとデューティーを背負うものではあるが、、、
けれども私は北シンチで働く女の人たちを見るのは好きだ。彼女らにとっては自分の容姿こそが商品価値であり、そこに努力を注ぎ、衣装や化粧で自分自身のベストを尽くして自分の容姿を作り上げている。それが彼女たちの仕事だからだ。何事も努力と精力がつぎ込まれた結果というものはある程度の感銘を他人に与えうる結果をもたらすことがある。そういう意味で彼女らの容姿も鑑賞に耐えるものであることが多い。
夜20時ごろは彼女らの出勤時間だ。その時間に北新地を歩けば、一人で、もしくは同伴で店に向かう女の人にたくさん出会う。彼女らの容姿は多くが張り詰めており、容姿に力を注ぎ込んだその成果が美しく見えるものが多い。私はそういう女の人を見るのは好きだ。別に店に入ってまで見たいとは思わないし、お近づきになりたいとも思わない。動物園に孔雀を観にいっている気分と同じである。けれども、年を取ってくると、こういう女の人を近くでしっかり見るという時間に、2-3万払っても惜しくないような気持ちになってくるのかもしれない。