bil.vasectomy

いわゆるオペレコを書いてみようと思う。カルテに書けばいい話だが、カルテには術式と術者、麻酔法のみ書いて、やった、と書くだけだからだ。将来この手術をやることがあるかどうかは分からないが、局麻下にできるとはいえ、経験していないとできない、一つのスキルであることは間違いない。そして世の中にはこの手術の需要は一定の割合で、存在し続けるのだ。
これからの記録は、専門的な記述ばかりであるし、自分のための覚え書きであり、同業者以外からの突込みを期待しないので、読みたい人だけ読めるようにしておく。
当院では不妊手術希望者は年に5例程度。私が前にVasectomyに入ったのは実に一年近く前の話のような気がする。自分のスキルとして、いなくなってしまうこの病院のカルテにではなく、自分の日記に記しておくことが有用だと思ったのだ。
症例は26歳男性。この若さで不妊手術を希望して、将来離婚、再婚でもしたらどうするのか、とも思うが、配偶者の同意書も得られており、自費手術であることも納得の上での施術だ。一度精管切除術施行して、その後数年たって、再婚により再吻合してくれ、という都合の良い人もいる。都合がよいというか先の見通しが悪いというか。自費なので払ってくれさえすればやるが、精管再吻合術は、難易度の高い手術である。まあ、挙児希望だけであれば精巣や精巣上体から吸引精子により可能であるから、再吻合は不要である。
体位は背臥位。陰嚢部皮膚をイソジンにて消毒。穴あきを掛け、施術部触診。精管は精索の中にあるが、精巣挙筋などをより分けて、なるべく精管のみを皮膚の上から把持するのが望ましい。精管はコリコリとした感触のある索状物で、把持する指先の力が少しでも緩むと、すぐに外れてもとの位置に帰ってしまう。陰嚢の外側からの同定がやりやすい。その後、精索を外鼠径輪の位置で掴み、1%キシロカイン3cc程度でコードブロック。その後、先ほど把持していた皮膚を同じ局麻で皮下麻酔。その後、先ほどと同様に、精管のみを皮膚の上から把持。両手を使って、皮切部が精管の直上となるように把持する。皮膚切開は精管の走行と同じ縦方向で約2cmほど。陰嚢部皮膚は伸縮するので、伸展をやめると、1cm以内の創となる。皮下に出血あればモノポーラーで止血し、助手が精管を把持したままで皮下より精管を同定する。剥離坩子で精管を掬い上げ、白膜の貫通しにくい部分はメスにて切開する。この貫通した部分より1-0絹糸にて精管を吊り上げておく。この状態で近位、遠位ともに1cmずつくらい、精管を剥離する。なるべく周囲の結合組織、血管を損傷しないように精管から分離し、1-0絹糸にて精管のみを結紮する。2箇所結紮するが、間は十分に取っておく。1ヶ所結紮したところのくびれを持ち上げ、そこにできた精管2本の束をそのまままた結紮する。こうすることで、切断された精管の断端が、反転した形になるのである。さらに、もう1ヶ所それを行い、その間の精管を切除する。切断ではなく、間の組織を除去するのである。これらはすべて精管の再開通を予防する目的で行われている処置である。今回は術者が体の右側に立ったので、右から施術し、その後左を行った。止血を確認の後、皮膚を4-0バイクリルにて縫合する。テガダームテープを貼り、消毒をふき取って手術の終了とする。
患者さんには歩いて帰ってもらう。自宅で風呂上りに自分で消毒してもらい、傷の上には絆創膏を張ってもらう。抗生剤は一週間投与し、一週間後に創部を診察する。さらに1ヵ月後に精液検査を行い、精子がいないことをもって、不妊手術の完了とする。
はあ、こうした記述は、漢字の正しい変換がなかなか出てこないのでえらい苦労する。