ゲース

稲中卓球部」。by古谷実。5年前くらいの一時期流行ってた。中学生の、前野、井沢ジョーひろみ、田中が自分たちの欲望とか卑屈さとかそういうものを殊更にさらけ出しながらいろいろと中学生活を送っていく話。
私も学生時代、かなりはまってて、全部読んだと思う。確か終わりのほうの巻で「ゲース」という題名の話があり、これがとても印象に残っている。お互いどれくらいに友情を重んじるかというテストで、互いに自分の欲望を優先してしまい、3人とも「ゲス」という呼び名で呼ばれるようになる前野たち。井沢のクラスのある男の子が、親友に狙ってる女の子とうまくいかないことを相談したところ、親友がその女の子に直談判しに行き、その結果その女の子は親友と付き合うことになった。前野井沢田中は人事ながら、ひどい話だと憤慨するが、当の本人は「俺、あいつにならいいか、と思って」と親友という関係を保とうとする。そこで3人は「ゲス」という称号の証として頭にかぶっていたうんこの被り物を、それぞれ男の子と親友とその女の子に被せて去っていく。
こうあらすじを述べたところで、読んでもらわないと、前野たちが何を守って、その男の子たちが何で前野たちに敗北したのか、ということは分からないと思う。けれど、確かに前野たちは最後のコマであきらかにさわやかな人間関係を保とうとした3人よりも、何かで優位に立ち、自信を持って自分たちの道を歩んでゆく形になっている。
前野たちは何で優位に立ち、なぜ自信を取り戻したのか。うまくいえないけれども、ここには確かにある価値観が表現されている。そしてさわやかな人間関係を表向き保ち、お互い傷つけあわない関係よりも、その価値のほうが優位となることをはっきり表明した話だと思う。
前野たちはただの卑屈で矮小で自嘲的なだけのキャラではない。ある価値を体現し、逆風の中、それを貫いていくという、大袈裟に言えば価値闘争の漫画だったと思う。
面白かったなあ。