うつ病治療、睡眠薬まとめ

今週の半ばに
広島大学病院総合診療科 佐伯俊成先生の講義を拝聴しました。
この先生の講義を聞くのはもう3回目で、毎回毒舌というか白黒はっきりさせたお話をされ、
抗不安薬を複数種類使っている精神科医はヤブである」というようなことをはっきりと話されます。
わかりやすく、また一つの視点として今までに気づいていなかったことを教えてくださいます。

今回はうつ病と、不眠症の薬の使い方を中心に、日本のうつ病治療が、製薬会社の主導でどれほど間違った
方向に進んできたか、ということが話の中心でした。
以下トピックスを。
・どのような集団にもほぼ一定の割合(10%)でうつ病になりやすい者がいる。
・自殺既遂者の90%に精神疾患があり、50%にはうつ病がある=死に至る病
うつ病のの発症原因は環境(ストレス)ではなく、体質(遺伝素因)である。
・モノアミン仮説:脳内神経伝達物質セロトニンノルアドレナリンドパミンの不足がうつの病態生理とされるが、実はこの仮説を
実証する根拠はない=嘘っぱちだと。
・Tianeptineというセロトニン再取り込促進薬(SSRIの反対の作用)でもうつ病に対する効果は従来の三環系、SSRI,SNRI
と同等で副作用も遜色ない=SSRIの薬理作用と効果には因果関係はない。
・Reserpinはうつ病を引き起こす薬剤として知られているが、2008年のRCTでうつ病に対してプラセボより高い治療効果を示した。
・2007年に発表になったトリプトファン除去食による、脳内モノアミン除去と精神症状との関連:健康成人においてモノアミン除去による気分の低下は認められなかった、モノアミンと大うつ病の直接的な因果関係は認められなかった。
うつ病治療のエフェクトサイズ:薬物療法を行った際の治療効果の中で、薬物自体の効果は25%に過ぎず、50%はプラセボ効果、25%は自然治癒力によるもの、と判定される。
うつ病治療薬においては、副作用があるほど治療効果がある=うつ病治療薬でなくても、副作用のある薬なら、効果がある!=ほとんどプラセボ効果
うつ病治療薬の治験は、Evidence-Biased Medicine。
・典型的うつ病であれば抗うつ薬は効果があるが、新型うつ病には却って害がある。
新型うつ病には睡眠薬抗不安薬を。
睡眠薬抗不安薬抗うつ薬の止め方:消極的減量を!=飲み忘れた時に調子が良ければそのままやめていく。積極的には減量しない。
・止め方2:副作用が出始めたら減量中止:副作用が出るということはうつ病が治ってきた証拠。
抗不安薬の力価:
?群: グランダキシン
セディール
リーゼ、セレナール
?群: セルシン
ワイバックス
メイラックス
?群: デパス
メレックス
セパゾン
?群: ソラナックス、コンスタン
レキソタン
?>?に行くほど効果が強くなる。抗不安薬は2,3日で効果判定できる。併用はせずに増量>薬剤変更で抗不安薬は常に1種類のみ投与。
睡眠薬の使い分け:
対象 入眠障害 中途覚醒

神経症的傾向弱い アモバン ドラール
脱力ふらつきが出やすい マイスリー

神経症的傾向強い ハルシオン ロヒプノール/サイレース
肩こりなど伴う レンドルミンデパス ベンザリン/ネルボンユーロジン

腎障害肝障害あり エバミール/ロラット ワイパックス

うつ病には、典型的うつ病新型うつ病がある。
・典型的うつ病は不眠、味覚障害、自責を特徴とし、自殺によって死に至る危険な病気だが数は少ない。「自分のつらさをわかってもらえるはずがない」。抗うつ薬が効果あり。
新型うつ病は製薬会社主導で「作られた」病気であり、本来健康な人間のストレス反応。他罰的、「自分のつらさをまわりにわかってほしい」。
・日本の年間うつ病患者数は1999年までは40万人程度で一定であった。
・しかし、1999年以降、急激に増加し、2008年には100万人を突破した。この間に何があったのか?
・1999年デプロメール発売、2000年パキシル発売。
・薬価の高いSSRI売り上げ増を目指す製薬メーカーの積極的なうつ病啓発活動がうつ病患者の受診率の上昇をもたらす。
・受診者数は増え、抗うつ薬の売り上げは上がったが、日本の自殺者数は減らなかった=本当に必要なうつ病患者にはSSRIは役に立ってない。
SSRIの発売は、本来受診の必要のない、社会の中で不全感を抱く人への薬物投与を増やし、製薬会社の収益は上がったが、本来助けてあげるべき自殺に至るうつ病患者の役には立っていない。