腎性貧血 勉強会 記録

第42回 広島血液浄化カンファレンスにて
東京大学腎内教授 南学正臣先生のご講演を拝聴しました。

腎性貧血をテーマに基礎から臨床まで最新の知見と
それによる新たな腎性貧血治療の視点、考え方を概説され、
非常に勉強になりました。
以下、記録しておきたいトピックです。
・腎性貧血とは造血ホルモンであるところのエリスロポイエチンの産生反応の低下が本体ですが、
・そもそも貧血で何が困るかというと
・生体がエネルギーを産生できない、という部分が結論です。
・赤血球は酸素を組織に運びますが、
・一つのグルコースから、嫌気的には2個ののATP、好気的に38個のATPが作られる。
・従って細胞がエネルギーを産生するには酸素が必要ということです。
・スポーツ選手のドーピング、筋力増強にはステロイド、持久力増強にはエリスロポイエチンが使われる。
・エリスロポイエチン産生細胞が発見されたのは極最近のことで、
東北大学の山本先生が、腎尿細管周囲間質に存在する樹状突起をもち、神経細胞類似のエリスロポイエチン産生細胞を同定されました。
京都大学の柳田先生も同様の細胞を同定されたとのことです。
・低酸素状態で細胞内で活性化し、低酸素防御機構を発動するHIF(hypoxia inducing factor)という因子があり、
・HIFαとHIFβが結合してHIFとして様々な低酸素防御機構(血管新生、組織修復など)を発動させますが、
・エリスロポイエチン産生に働くのはHIF2αというアイソザイムらしい。
・HIF2αの分解機構が先天的に欠損した家系では家族性多血症を生じ、
・家族性多血症の中にはイーロ=マンチランタというノルディックスキーの英雄の様に、持久スポーツ能力にたけた人がいる。
・エリスロポイエチンの血管新生作用、臓器保護作用が注目され、CREATE,CHOIR,TREATなどエリスロポイエチンの多臓器保護、予後改善を目標とした大規模試験が組まれたが、望むような結果は出なかった。
・target Hbの問題:ESA低反応性が、ヘモグロビン値と独立に予後不良に関係する。
・腎機能については、血圧、血糖値、脂質のように、わかりやすく、独立に予後と結びつくようなsurrogate markerがない。
・だから結局、腎死、もしくは生命予後というような因果関係のはっきりしないアウトカムでしか臨床試験ができない。
・しかし、貧血の本来の意味に立ち返れば、患者の自覚症状を改善することこそをアウトカムとするべきである。
・イギリスのNICE guideでは、患者の症状で目標ヘモグロビン値を変えること、ESA低反応性があればガイドラインの目標ヘモグロビン値の達成にこだわるべきではない、とされる。
・逆に活動性の高い患者で、QOLの改善を認めるのならば目標ヘモグロビン値を超えてもさらに貧血を治療すべきである。

個人的に気になったトピックは、
・国立大学腎臓内科教授就任の最年少記録が続々と更新されている。京都大学の柳田先生に引き続いて広島大学の正木先生:これは腎臓内科という領域がfrontierである、ということでしょうか。
・透析患者において、低ヘモグロビン値も予後不良因子だが、それとは独立にESA不応性が予後不良因子として存在する。
ESA不応性は知られているように鉄欠乏、炎症、低栄養と相関があるわけだが、どうもこれらから独立する不応性の因子があるかもしれない。
・HIF刺激薬によって、腎不全者でも内因性のエリスロポイエチンの上昇がみられる。

これらから思いついたCQ
・出向している低ADL患者の多い病院の透析室では、寝たきりHb=8.0とかの患者さんにネスプ80μg/weekとか処方してあるが、これは本当に必要か。実は10μg/week程度で同程度のHbとQOLを維持できるのではないか。
ESA低反応の患者に高容量のESA剤を投与するのは却って害があるのではないか。