Update2件
1日のうちに二つも講演を聞いた。
どちらも為になったと思う。
ひとつは新潟大学の風間順一郎さんの講演で、透析骨症におけるリン管理のトピックス。炭酸ランタンが安全とは言えない、という主張は納得のいくものだったが、リン管理の重要性もはっきりと評価できないならば、どちらのリスクを重く考えるかは見識次第、という風間氏の主張通りで、それぞれが判断していくしかない問題だ。
主なトピックは、
・体内のカルシウムリン代謝のおさらい:カルシウムはVitDで厳密にin-outを調節されている
・リンは吸収制限はない>排泄不能により蓄積
・リンの値が生命予後に有意に相関することが明らかになった
・ガイドラインは、その値にするために何をしてもよいかのような圧力をかける側面があるので弊害がある、といえる
・逆にリンと骨症との因果関係は不明
・本来は透析により、十分なリンの除去が行われるのが理想
・仕方がないのでリンの吸収を抑える薬剤が必要となってきた
・リン吸着剤として、体内にある金属塩、体内に無い金属塩、吸収されない重合分子、吸収されない金属分子の4系統が存在する
・体内に無い金属塩は、アルミニウム製剤で経験したように蓄積による合併症が起こる可能性があり
・しかも外在金属蓄積の合併症は長期の観察を経ないと判明しないという事例が多い(カドミウム、水銀など)
・従って、安易に体内に無い金属塩を薬として使用すべきでない
・それなのに炭酸ランタンを発売するとは!
・リンの蓄積による危険が、どの程度のリスクかきちんと評価し、炭酸ランタンの未知のリスクにも十分に配慮したうえで(患者のICの上で)ランタンは使用されるべきである
・むしろ、コンプライアンスの悪いセベラマー等の改善に努力すべき
・シナカルセトにもリン減少作用がある
・VitD剤は、二次性副甲状腺機能亢進症の有無と独立に生命予後改善の効果がある
聞き終えての感想としては、個人としての主張が強すぎて、それぞれのエビデンスの取捨選択が逆に恣意的に為されている可能性が疑われ、エビデンスの原典にそれぞれ当たってみないと何とも言えない、という気分になった。スライドのキャラクターにロリ系の少女が使われていたり、反論に過剰に反応する辺りが、ネットずれした方なのか、と感じられた。
しかし主張はラディカルだが分かり易いし、新たな視点を教示していただけたので、非常に有意義だったとは思う。
もうひとつは広島大学心療内科の佐伯俊成さんの講演。こちらは大学で教授職に中っておられるのだから、当然エビデンスに基づいたお話だろうとは思うのだけれど、講演中にほとんどエビデンス資料が示されず、むしろ25年という精神科キャリアによる、エンピリックなお話を聞いているような気分になった。新たな知見としては、
・日本の自殺者数は1998年から急増し3万人超(1998年に何があった?)
・自殺者のうち90%以上は精神疾患有病者である、うち30%がうつ病。
・従って、自殺者は自由意志で死を選択したのではなく、病魔によって死に追い込まれたと考えるべき
・従って、自殺者は医療が救済すべき対象である
・しかし、自殺者の50%は医療機関への受診すらしていない
・従って、自殺する前に医療機関に受診させる啓蒙活動、ネットワークの整備こそが自殺の減少のために必要となる
・「軽症うつ病」と「真のうつ病」の鑑別点は食欲の有無である。
・逆にどちらのうつ病も不眠が病気の主体をなすので、治療は不眠症治療から始める。
・抗不安薬をファーストラインで使ってよい。
・抗不安薬、抗うつ薬ともに力価を把握し的確にドーズアップ、薬剤変更を行う、定期薬としての2剤併用はしない。
・抗不安薬の力価:セディール<リーゼ<セルシン<メイラックス<デパス<セパゾン<ソラナックス<レキソタン
・抗うつ薬の力価:トレドミン(SNRI)<デプロメール(SSRI)<ジェイゾロフト(SSRI)<パキシル<レスリン(この辺は専門科へ)
・ドグマチールは薬剤性パーキンソニズムを惹起しやすく使わぬが吉。
・パーキンソニズムの診断はMyerson徴候で(眉間をタップすると、瞬目反射)。
・薬剤性パーキンソニズムは非常に多い(原因薬剤:ドグマチール、プリンぺラン、ナウゼリン、セレネース、ノバミン、グラマリール)
・睡眠薬力価:睡眠導入剤:マイスリー<アモバン<ハルシオン<リスミー<レンドルミン 睡眠維持:ユーロジン、ロヒプノール
・不眠症への寝酒は悪循環、アルコールの害のほうが睡眠薬の害より遥かに多い(この知見は既知のものであった)
・減薬、離脱は積極的には行わない。副作用出現、飲み忘れ、などを契機に減らしていく。
専門外なので非常に為になった。とくに向精神薬の力価についてはこれからも参照していきたい。
Updateの多い1日だった。