辞めていく人々

昨日こんなことがあった。


透析開始1時間ほどで、透析中低血圧を生じた患者がおり、副交感神経反射により、便意を強く催し、トイレに行きたいとの訴えがあった。
まだ、透析時間1時間であり、除水も1.5l以上残っているので、一時ラインをヘパロックして離脱し、トイレで排便を済ませてから、透析続行する方針とした。
ところが、報告に着た看護士が「それはできません」と言う。血圧が触診で60に下がって、補液により110に回復したところであり、まだショック状態なのでトイレに行くのも危険であり、とても透析続行できる状態ではない、と言う。
迷走神経反射であり、反射が収まれば血圧は回復する。排便を済ませて、血圧が落ち着くまで安静にしてから再開するように指示を出すが、「それはできない」の一点張り。
では、どうするのが良いと思うのか聞いてみると、本日は透析を中止し、翌日また透析に着てもらうのが良いと思う、とのこと。なぜ透析続行できないと思うのかその根拠を聞くと、患者さんの様子をずっと見てきた自分には分かる、医師自身で患者さんの様子を見てみろ、と言う。
要するに患者さんが青い顔をして、脂汗を流して唸っているから、危険な状態と言う感じがして恐ろしく、透析続行できない、という意見のようだった。
危険な状態かどうかはバイタルサインを見れば分かることで、意識があり、血圧もあり、SpO2も問題無ければ、現在の危険は何もない、患者は単に便意で苦しんでいるのであり、排便を済ませれば回復する。そういう説明をしようかと思ったが、議論をしている間にも患者は苦しんでいるので、埒が明かないと思い、看護士が感情的になって怒る理由は何か、と言うことだけを指摘した。すると、「患者さんのためを思って一生懸命になっているんです」と激昂する。
自分で離脱させるから良い、ということでベッドサイドに向かい、昇圧剤の投与と離脱の手続きをする。腹痛の訴えがあるので一応虚血性腸炎の可能性を念頭に置いた。トイレまで付き添い、別の看護士に観察の上、バイタル安定していれば透析続行するように指示した。
結果として問題無く予定の透析を完了した。


その看護士が今日になって「辞めさせてもらいます」と言ってきた。
昨日の一件で、私の方針と彼女の方針、どちらが「患者さんのため」になる方針だったか、私にとっては明らかなのだが、彼女にはそれを分かってもらえないらしい。彼女も「患者さんのため」、私も「患者さんのため」、お互い目指しているところは一緒なのに、なぜ感情的に敵対し、辞めていかなければならないのか、私には理解しがたいことだ。
けれど、恐らく私とスタッフの間のコミュニケーションがうまく行っていないのだろう。昨日の一件について私の判断、方針には何も問題は無かった。彼女が怒ろうが辞めようが、私の方針が患者の利益につながるものだったという事実は変わらない。しかし、彼女が辞めること、及び似たようなことが重なって当院の運営が困難となり、そのことで患者さんたちに大きな迷惑をかけることにつながる、という可能性はある。
お互いを理解するためにもっと普段から言葉を費やしておくことが必要だったという後悔はある。