土浦8人殺傷

愛読している永井均氏の「子供のための哲学対話」。
この事件の公判記録を読むと、犯人が人を殺していい理由の引き合いにこの本を持ち出している。
永井均氏は確かに社会に存在する倫理とか法律とかは、絶対的なものではなく、それを相対化できるような視点は常に存在することを説明しているが、その視点を取るべき根拠があれば、という話も書いてある。
この犯人の公判での主張によれば、死刑になるための手段として、自殺よりも簡易であるために、連続殺人を行ったとのことだが、どう考えても無理な話のつながりと感じられる。
また、無意味な現実の生を終わらせて、ファンタジーの世界に行こうとしていたかのような主張がなされるが、死刑になってそういう希望が叶うと本気で信じていたとも思えない。
結局のところ、家族との不和、思うままにならない自分の人生に対する鬱屈を、社会を騒がせることで解消しようとする愉快犯?というのか、そのような動機しか見えてこないような気がする。
安易なマスコミによって、「子供のための哲学対話」が否定的に取り上げられる可能性が危惧されるが、たとえこの犯人の犯罪に至る思考のどこかにこの著作が絡んでいたとしても、この著作の記述しているものは、彼が行った無軌道無知識無意欲な犯罪行為となんら無関係であることは、誰の眼にも明らかだろうと考える。