医学が手をつけないこと

人間の生理や病理について医学がまだ解明していないことはたくさんある。
おそらくわかっていることよりわかっていないことのほうがまだ多いのだろう。
だからといって経験則に頼るとか、神秘主義に陥るのではなく、あくまで科学的な立場でそういう日常的な未解決な問題に臨みたいと思っている。それが医者の取るべき態度だと私は考える。
ただ、疾病の重要性、つまりそれは発生頻度の高さと、その重篤さ加減によるわけだが、それが重いものほど優先的に解決のための研究がおこなわれ、根拠に基づいた治療が確立されていく。しかし重要性が低いと判断されるような疾病や病態を、医学はなかなか対象として取り上げない。


現在私が従事している透析領域で、時々みかける病態の透析中の高血圧。これの病態はまだ解明されていない。
本来透析では、除水により血管内の液量が減少するわけであり、血圧低下するのが普通である。しかし透析がはじまって中盤以降にどんどん血圧が上がる人がいる。普段の収縮期血圧が150程度の人が200を超えるくらい高くなる場合もある。
除水による体液量減少がレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系を亢進させ、血圧上昇につながっている、などと推測はできるが、腎機能が廃絶しているのにレニン分泌能だけ生き残っているかどうか疑問があるし、実際にそれらの値を調べた研究はない。実際レニンアンギオテンシン抑制系の降圧剤であるARBやACEIを十分投与していてもこの高血圧は生じる。


こうした問題に日常臨床として対処しないといけないが、EBMとして提示されている根拠は何もない。スタッフは透析中低血圧を必要以上に恐れて、頼りにならないし、孤軍奮闘という感がある。