創傷治療

きっかけは子供の擦り傷。3歳児であるからよく擦り傷をこしらえる。我が子のたかが擦り傷にEBMとか親ばかもいいところだが傷を治すためにより良いのはどういう方法なのかどちらかといえば専門範囲内なのに、EBMを持ってして答えられないのは恥ずかしく。今更ながらに調べることにした。私は子供の傷を早く治してやりたいし、何かが傷に触れると痛いだろうと思うから絆創膏を張ってやる。しかし妻は傷は絆創膏など張ると化膿して却って治りが悪いといってせっかく張った絆創膏を剥がし、さらに私が悪いことをしているかのように子供に言い聞かせる。私は創傷治癒には湿潤環境が良いと考えていたからそのEBMのつもりで以前探していたこのサイトに辿り着いた。
http://www.wound-treatment.jp/
このサイトは以前から知っていたし、傷には湿潤環境が良いとは思っていたが、消毒が不要と言う立場にはなかなか立てていなかった。皮膚常在菌の創感染がむしろ有害な感染症を防ぐことで、創傷治癒を早めると言う考え方は自分にとっては新しいトピックであった。この見解が、このサイトの方の個人的な実験のみに基づくのではなく、EBMとしてのコンセンサスを得られているなら*1、当然これに従うべきであろう。9年も創を消毒し続けていた自分の行為が完全に過ちであったとすれば非常に恥ずかしい限りだが、、、
言い訳をさせてもらうなら、私が消毒という慣習を絶てなかったのは、勤務医時代に、創感染で創がシカイし、毎日毎日ユーパスタを盛り続けた経験があるからだ。このような消毒無用説は私が医者になる前から言われていたとは言え、私の上司は筋膜-皮下-皮膚すべてを絹糸で縫うような人物であったし、吸引式の皮下ドレーンなんて耳鼻科領域にしか存在していなかった。責任転嫁ということになるが、そういう環境にあって私が消毒無用論をたとえ目にしていたとしても実行に移せたとは今も思えない。
このサイトの人たちに言わせれば消毒したからこそシカイしたのであるし、ユーパスタなど塗るから治癒が遅れた、ということになるのだろうけれど。
実際創にポケットができ、傷をクーパーで開けてたまった膿瘍を掻き出すときのやりきれない気持ちに対して、当時の私にできることは清潔操作と消毒しか無かった。皮膚常在菌をむしろ感染させるというのは逆転の発想でとても思いつきもしなかったが、あの絹糸の易感染性と厚い皮下脂肪組織に対して吸引ドレーンなどの良い方法が無かったのであるから、消毒していなかったとしても2次感染を防げなかっただろうと思う。
もっとも、手術後の閉創のときも、私が勤務医をやめる2年前くらいからイソジンでの皮下の消毒は廃止となり生食で浸したガーゼで拭くだけとなった。さらに創も密閉型ドレープで多い、吸引式のドレーンを入れ、ガーゼ交換は行わず、一週間放置すると言うのが主流であった。
これからの創傷に対しては、私は消毒はしないことにする。ただ、田舎の医院でこれをやると、「あの先生は消毒もしてくれない、、、」というようなことを言われそうだが。

関連サイトでも比較的興味あるトピックスが並んでいた。人目を引くために多少誤解を招く過激な断罪をし過ぎではないかと思わせる向きもあるが。内容には概ね賛同できる。
http://www.araya.dr-clinic.jp/woundtreattrial.page.html

*1:これは重要な確認すべき事項。自分の体で実験するなど一見非常に献身的で説得力のある方法であるが、それは単純に一症例の前向き研究に過ぎず、EBMとするには当たらない