Ns徒弟制

年度末ではなく、年末ということを区切りに、辞めて行く人もいる。
忘年会はそういう人たちの送別会も兼ねるわけだが、医者と同じく看護士も徒弟制の部分があり、駆け出しのころはマンツーマンの指導を受ける。そして、新人はその指導に当たってくれる担当の看護士を「お姉さん」と呼び、逆に指導する側からは新人は「妹」と呼ばれる。まあ、これは看護学校が付属していた当院だけの事情かもしれないが、そういう「濃い」マンツーマン体制が、看護士の卵に対しては取られており、その影響はその看護士のその後の人生にかなり色濃く影響を与える。
医者においては、研修医が「ウンテン」、指導医が「オーベン」。恐らくドイツ語なのだが、マンツーマン体制においてお互いはこのように呼ばれる。
我々が扱うのは人命とか健康とか、そういう種類のものだ。研修者が、試行錯誤をしてはならないような対象を扱う仕事だからこそ、このような徹底したマンツーマン体制が敷かれるのだ。研修をする側は、指導医のやるとおりそっくりそのまま真似る、という形でしか、仕事に関わってはならないのであり、何か自分なりの工夫をしても良くなるのは、指導医が許可して初めて可能となる。従って、オーベンとウンテンはかなり密な人間関係におかれ、お互いの性格や、相性は、その後の彼らの仕事振りに、またその後の研修医の運命に大きな影響を与えるのである。
看護士においてもそれは同じであり、お姉さんと妹の関係は、仕事上だけでなく、プライベートに至るまでとても濃くつながった数ヶ月を過ごすこととなり、このときの経験は、彼女らにとって、一生忘れ得ない思い出となる。
だから、こうした送別会のとき、やめていくのが姉であれば、妹が花束を贈り、妹がやめるなら姉が花束を贈る。
そして彼女らはお互い別れを惜しんで号泣する。
このような体育会系の人間関係は最近は疎まれる傾向にあるのかもしれない。看護士の中でも若い人たちを中心に最近はすごくドライになってきた気もする。
しかしやはり、昨日の送別会でもやめていく妹が「お姉さんと夜勤でおやつを食べながら話を聞いてもらったときのこと、一生忘れません」と泣きながら感謝の言葉を述べる。
やはり、いいものだ、と思うのである。
同じ生きていくなら、濃い人間関係を結び、こんな経験ができてよかったと心から思える時間を重ねて生きたいというものだろう。
彼女らは極めてストレスの多い職場にあって、そういう意味では濃い人間関係の中を生き、十分な経験値をつんで、恐らく同年代のほかの女の子たちの平均と比べて、はるかに高い、リアルレベルアップをした状態で、次の人生へと歩みを進めていく。今後も彼女たちは強く生きていくことだろう。