去り行く者を留めるのは叶わぬ業

外来でただ一人感じのよかったバランスの取れた看護士さんが、昨日を最後の勤務日として、離職された。今後は、田舎で農業をやっていくらしい。いわゆるIターン。
当科外来は彼女に支えられるところが多かったし、個人的に気に入ってもいたので、送別のための花とかケーキとか、あと個人的な餞別の品を買いに行った。
餞別として人に何をあげようか、いつも迷うのだが、もらって邪魔にならないものという点では食べ物が一番いいのだけれど、記憶に残ってほしいという気持ちもある。
結局、自分が今読んでも一番しっくりくる言葉たちが並んでいる本、「子供のための哲学対話」を贈ることにした。これが適当な判断なのかどうか、今でもわからない。餞別に本をあげるなら、新訳「星の王子様」のような当たり障りがなく、かつ誰でも何らかのよいイメージを受け取れるような本のほうがよかったのかも知れない。
人によっては哲学の話など、地に足のついてない無駄な議論だと思う人もいるだろうし、説教くさくていやだ、と思う人もいるだろう。けれども私は、自分の行動や判断の基本となるような、哲学的な部分について、この本に書いてあるような態度や考え方が、常に元になっていると思うから、私と行動をともにした人間ならば、この本と私の行動や判断が共通に目指すところを、ひょっとしたら理解してもらえるのではないか、という期待がある。さらに、せっかく私が贈るのならば、私と会うことがなければ、その人が一生出会うこともなかったであろうという本を贈りたい。
そういう点では、この選択は間違ってはいないと思う。