土の中の子供

「土の中の子供」by中村文則
第133回芥川賞受賞作品
芥川賞の作品は大体読むことにしているのだが、今回は特に読むのが遅れた。いったいいつの芥川賞だったか。
読後感としては、「そういう幼少期をすごせばそのような在り方にならざるを得ないのかもしれない」というだけのことで、そこから普遍的に汲み出されるべき共感や、教訓となるようなものをあまり見出せない作品だった。
主人公が暴力や、恐怖に対して身を投げ出してしまう、自棄的な傾向については、分からないわけでもない。スキーのリフトに乗っていて、ここから落ちるとひどいことになる、という想像をしだすと、ついそんな恐怖を味わったままでいるよりは、早いこと落ちてしまった方がいいというような気分になることがあるからだ。
結果として、主人公は遺伝的なつながりのある親族によってではなく、身近にいた他人によって更生というか生を継続する方向に歩んでいける形になるわけだが、何かが解決されたというわけではなく、ただ生は継続されていくというだけの話であった気がする。
現実というものは何かが解決されたり、希望を持てる形で終わるものでないのかもしれないが、文学はフィクションである以上、なんらかの解決、希望、もしくは共感を得られるような何らかの骨組みが無いと、なんというか、「読んだ甲斐がない」。
現在の評価として私はこの作品が面白いとは思わない。