経営面方針

うちの病院はある企業に属する形の私立病院である。その企業の社員の福利厚生施設としての一面を持つ。最近になって、年8億とかの赤字経営が続き、病院の存続自体を有害視する意見がある。
そこで経営再建、病院機能評価受審に向け、さまざまな制度改革、合理化に取り組んでいるわけだが、個人的にはこの病院の目的をはっきりしないと結局うまくいかないという思いがある。周囲には総合病院がいくつもあり、経営戦略的には最悪な立地条件。よほど独自の治療成績、特殊治療装置などの売りがなければ、そもそも経営、収支重視の路線は成り立たない。
ムダや不合理なことはどんどん削っていけばいいとは思うけれど、それだけでは根本のところは変わらない。この病院がどのようなゴールを目指しているのか、ということがそもそも定まっておらず、私としては結局はこの企業の福利厚生施設であるところを離れられないのなら、そこに徹底するべきなのでは無いかと考えている。

本来、急性期病院では、維持透析は経営対象として治療は行わない。末期腎不全の透析導入し、他院に紹介するまでの間の透析、および、他院にて透析中患者が他科入院したときの入院中の透析、および、院内急変時の特殊透析、吸着療法など。そうした症例が急性期病院での透析室の役割である。
もし維持透析で経営を黒字にしたいなら、ベッドは20以上用意し、80人近い維持透析患者を常時見ていく形にしなければ、十分な利益を上げることはむずかしい。
しかし、当院では社員の福利厚生施設との観点から、主に社員の腎不全患者を対象に10あるベッドのうちの8割で維持透析を行っており、緊急透析は病棟などで行っている。そもそも実質的に、腎臓内科担当医がいない病院となってしまっているので、外来の段階から、透析導入となる症例が非常に少ない。
そのような状況で、経営面から維持症例を増やせ、というような要望が来る。他科からは、もっと緊急透析や吸着療法などを気軽にできるような体制にして欲しいという要望が来る。少ないベッドしかない現状でこの二つの要望は相反する方向の要求となる。
つまりは透析室としても方針がはっきりしないのだ。維持症例で収入をあげたいのか、緊急透析用の待機施設なのか。せめてどちらに重きをおくのか、ということは決めておかないと、常にどういう体制にしていくのか分からないまま、現在のスタッフでたまに起きる無理な事態に無理な形で対応していかなければならない。
私自身の立場が、現在、半責任者、というような良く分からない立場なので、どうすることもできない、というのもある。私としては、当院は急性期病院として機能していると思うから、特殊透析、緊急透析、導入に重きを置くべきだと思っている。維持透析特化なら、それ専門のクリニックがいくつもあるからだ。導入症例を増やすためには、腎臓内科としての標榜医、専門外来の本格的な開設が必要だ。現在のように泌尿器科の中の一部という形での外来では、腎不全で来院する方は増えてこない。導入例が増えなければ、急性期透析室は成り立たない。